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■ 語り部ノート にしのみや

はじめに

西宮まちの語り部ボランティアは、「セイフティ&エコガイド事業」から生まれました。「セイフティ&エコガイド事業」については、本冊子の冒頭に章を設けておりますので、そちらをお読みいただくとして、ここでは、語り部ボランティアについて少し説明したいと思います。

語り部活動のルーツは、「セイフティ&エコガイド事業」の一環として実施された講演会にさかのぼります。自分たちの暮らしている町の自然、地理的条件、歴史や民話、人々の智恵などを学ぶことを目的として、数回にわたって行われました。講師は近藤浩文さんです。近藤さんの語り口は絶妙で、しかも、西宮の自然、歴史、文学における造詣の深さは、参加者を魅了しました。

講習会終了後まもなく、この講演会の続編を求める声が高まりました。一方、せっかく自分たちの町の自然や歴史を学んでいるのに、部屋の中に閉じこもっていてはもったいない、現地を歩きながら実物と対面しながら近藤さんのお話を聞きたい、という意見も聞かれました。また、講演を聴くだけではなく、学んだことを次世代の市民に語り継ぐことができるようにすることも大切でないかという指摘もありました。

そこで誕生したのが、「まちの語り部養成セミナー」です。近藤さんを講師として、西宮市の町を8回に分けて歩きながら、各地点の自然、地理的条件、防災、歴史、民話などを学ぶという趣旨です。1コースあたり約6時間のプログラムでしたが、公募して受講生を募ったところ、毎回、多くの参加者が集まりました。

8回のセミナーが終了した後、参加者による交流会を行いました。そこで話題となったのは、近藤さんから教えていただいたことを、今度は「語り部」としていかに語り継いでいくかといことです。そのためには、語る練習が必要です。しかしながら、まだまだ近藤さんに教えていただきたいことがたくさんあるという意見や、知識が不十分ゆえ人前で語る自信がまだないという声も聞かれました。

そこで、第2次の語り部養成セミナーを行うことになりました。西宮市域を8回のコースに分けて歩くこと、近藤さんに講師をしていただくことは、第1次と同じです。変わったのは次の点です。まず、コースごとに「世話役」を決めました。世話役は事前に近藤さんと歩くコースの打ち合わせをする、参加者が道を歩く際に交通等の安全に配慮する、そして、自然、歴史、防災等についての説明は基本的には近藤さんにお願いするが、そのうち数箇所については世話役が担当して語ってみる、というものでした。

世話役の人たちは、事前に集まって情報を交換したり、歩くコースを下見したり、図書館で調べものをしたり、地元の方にインタビューをしたりして準備を行いました。本番では緊張の中、一生懸命説明をしました。近藤さんには暖かい声援とともに補足のお話を頂戴しました。

第2次のセミナーでは多くのことを学びました。人前で話をする難しさ、調べたことの全部を言うのではなく一部分だけに絞り込む勇気、そしてなによりも、自分たちの町のことを知る喜びです。

第3次のセミナーでは、第2次までのセミナー受講生が「語り部ボランティア」となって、コースの企画・運営のほとんどを行うことにしました。一般の方に対して語るにはまだ自信がないので、第2次までの受講生を対象にして各コースの担当者が語ることにしました。近藤さんには顧問として毎回付き添っていただくことにしました。

語り部ボランティアは、新しい話題を次々に発掘しました。図書館で郷土史の文献を調べたり、地元の施設を訪問して資料を集めたり、地元の歴史や文化に詳しい方を訪ねてお話を伺ったりしました。『町名の話』の著者である山下忠男さんをお招きしての勉強会も催しました。

回を重ねるごとに、語り部ボランティアの「語り」は、目に見えるほど向上していきました。説明の補助資料にも工夫がなされていきました。コースによっては、訪問の先々にいらっしゃる地元の方に直接説明していただく趣向もとられました。

ボランティアたちは語り部活動を通して、自分の暮らしている町の歴史や自然を知る喜びを感じ、地理的条件を把握し先人の智恵に学ぶことの大切さを知りました。それが環境や生活の安全について考える際に役立つことも実感しました。そして、このような知識や智恵を自分たちだけに留めるのではなく、次世代の人々にも語り継いでいくことが大切だと痛感しました。

今後は、一般の市民の方々を対象に語り部活動ができるようになりたい、小中学校での総合的な学習の時間等の地域学習を語り部として支援したい、といった希望を胸にますます研鑚をしてきたいと思っています。本冊子がその礎となればと願っております。

西宮まちの語り部くらぶ一同